そいつは、雨の中で震えてた。
気紛れに足を踏み入れた裏路地。
震えるそいつを見つけたのは、ほんの偶然。
「寒くないのかよ、お前」
…何も答えない。
死んでいるのかと思ったけれど、
その視線は真っ直ぐに俺を射抜いていた。
瞳の奥に暗い闇が見える。
俺たち能力者に近い瞳。
けれどこいつは能力者ではない。
「こんなとこにいたら風邪ひくだろ」
手を差し伸べてやると、後ずさって距離をとる。
爛々と光る瞳に宿るのは、…恐怖。
「…ロクな目に遭ってこなかったんだろうな」
ずっとひとりで。
周囲の全てを恨み憎み畏れ続けて。
でもきっとどこかで、寂しいと思っている。
「信じろ…なんて、無理な話か」
それでも、信じてほしいと思うのは。
それでも、触れてやりたいと思うのは。
俺たちにそっくりなその瞳に魅かれたからか、…それとも?
「俺、お前の気持ち…少しぐらいは分かるんだけどな」
多少強引に頭を撫でてみる。
小さな体がびくりと震える。
「怖がらなくていい。…大丈夫だから」
声をかけながら、ゆっくりと撫でる。
最初は身体を強張らせていたものの、
次第に落ち着いてきたのか感触が柔らかくなっていく。
自分の中にこんな優しさが残っていたことに気付き、
激昂しやすい自分とのギャップに軽く苦笑した。
「なぁ、俺と一緒に来ないか?」
小さく丸い眼が俺を見上げる。
真っ直ぐな視線。
だけどさっきまでとは違い、恐怖の色は薄い。
「…行くか」
小さな身体を抱き上げてやる。
暴れるかとも思ったが、じっと動かない。
可愛らしいその様子に、小さく笑みがこぼれた。
「そうだ、名前。そうだなぁ…」
「…。でどうだ?お前の名前」
「みゃぁ」
『心臓』を求め、北へ向かう旅路。
偶然の女神の気まぐれで出会った、新たな『仲間』。
茶色の縞々につぶらな瞳、ふさふさで小さな旅の道連れ。
さて。同族たちにどう説明しようか。
02.大丈夫、怖がらないで。
fin
atogaki
20000HIT記念フリー夢小説。
お持ち帰りは自由ですが、サイト掲載の際にはご一報を。
蓮花様リクエストの森尾夢。
なにをどう血迷ったのか、主人公が仔猫でございます。
待たせた挙句がコレでごめんなさいホントすいませんorz
ご要望があれば人間主人公で書き直します…。
08.09.20 黒風貴臣