それはいつか嘘になるけれど。
いつだったか隊長が街に出たときに、アンチバリアを無効化して視覚認知した地球人。
記憶消去すら効かない特殊体質のこいつは、そのうちに日向家に居座るようになった。
そのうちに何故か俺の研究室に出入りするようになったそいつを好きになったことは、誰も知らない。
「なぁ、」
「でいいって言ってる。何?」
「何でお前、こんなトコ来てんだ?つまんねーだろがよ」
「んや、別につまらんことないぞ」
「…そうかァ?」
は、少なくともこんな薄暗いところでじっとしているキャラクターではないと思う。
どちらかといえば日向夏美のような、外の空気や陽の光が似合うタイプだろう。
なんでそんなのに惚れたのかと自分に疑問さえ抱く。
…まぁ、仕方ないのだろう。
恋愛感情は年齢種族その他諸々には関係ないと誰かが言っていた。
「少なくとも、アンタとこうやって話すのは楽しいよ。
それに友達のトコに来るのに理由もいらんだろ?…あ、嫌ならやめるけども」
「あ、いや、嫌ってワケじゃねェんだが」
「そっか。ならいいっしょ?ここに来たってさ」
そう言って、にっと笑う。
その笑顔に体温が上がるのを感じ、あわてて顔を逸らした。
「…クルル?」
「…何でもねェ」
額を押さえる。
たかだか地球人の女一人に心乱される自分に、苦い笑みがこぼれた。
これがかつて歴代最年少の士官として名を馳せた男の姿だと思うと笑うしかない。
自らの持つ知識と技術の全てで、ケロン人から地球人の姿になる方法を作り上げた。
全く馬鹿な男だ。たった一人の地球人のためにここまでするなど。
それとも、恋愛感情に取り付かれた男はみな一様に馬鹿なのかもしれない。
ふと脳裏に堅苦しく暑苦しい軍人気質の先輩の姿が浮かぶ。
地球人の女に惚れ込んでいるという点では同類かと思うと、再び口の端が歪んだ。
軽く溜め息をついて腕の時計を見れば、午後6時の数字を示していた。
「もう帰る時間だぜ、」
「ああ、本当だ。じゃ、帰るわ」
「ん」
立ち上がりラボの入り口まで送る。
隣で歩くほんの数歩、ほんの数秒が俺にとってどんなに愛しいものであるか、こいつは知らない。
研究所から出る直前、が振り返った。
「明日も、ここにいるよね?」
それは、単純な質問。他意のない、言葉の通りの。
けれどそれは、俺の意識を一瞬飛ばすのには十分すぎた。
恋愛感情は年齢種族その他諸々には関係ないかもしれない。
だが、それに阻害されるケースは幾らでもある。
俺が侵略者である限り、明日もここにいるとは言い切れない。
俺たちは所詮他星の住人、余所者でしかない。
「…」
「ん?」
いつか会えなくなる。いつかは俺を忘れる。
「――心配しなくても、俺はいつもここにいるからな」
の頭をぽんぽんと軽く叩く。
…これは、嘘だ。
俺はいつかここからいなくなる。
はいつかここに来なくなる。
けれど。
「だから、明日もまた来いよ?楽しませてやるからよ。ククッ」
「う…すこしコワいけど、お言葉に甘えるかな。じゃ、また明日ね!」
「あぁ。また明日、な」
ぱたぱたと駆けていく後姿を見送る。
――いつまで、『また明日』を嘘ではなく言えるのだろうか。
嘘をつくことに罪悪感を感じる心は持ち合わせてはいない。
だから告げるつもりのない想いを嘘に込めて。
『いつもここにいる』平凡な毎日が少しでも長く続けばいいと、思った。
いつか嘘になる言葉に、精一杯の愛を込めて。
01.いつも、ここにいるから。
fin
atogaki
20000HIT記念フリー夢小説。
吉川千晴様リクエストのクルル夢でございます。
クルル片思い。ごめんなさい、書いてて楽しかったです。短いけど。
何かクルルは恋愛に不器用な印象があるとです。
普通はクルルっつったら鬼畜なんだろうけどなぁ。何でだろう。
お持ち帰りは自由ですが、サイト掲載の際にはご一報あれ( ´ω`)ノ