世の中が理不尽なコトだらけってことは重々承知してます。

けど、だからってコレはないんじゃないですか?















Unreasonable Love















「ッきょわーーーーーーーーーー!!?」

フツーの人にとっては何てこともないフツーの朝に響き渡る非日常的な悲鳴。
何が起こったのか?それはもちろん非日常的なものと相場は決まっている。
つまり…「目が覚めたら隣に宇宙人が寝ていた」とか、そういう類いだ。

「な、な、なっ…!!」
「…ぁん?うるせェなァ…」
「なぁんでアンタがココにいるのよーーー!!?」

ココ=の部屋、である。
そして『アイツ』とは、“敵性宇宙人”の、“ケロン人”クルル曹長のこと。
彼を含めた5人のケロン人は、地球侵略の為にやってきたらしい。
だが彼らは、居候している日向家と何だか馴染んじゃっている。それでいいのか。
またと夏美・冬樹姉弟は幼馴染で――しかもには宇宙人が見えちゃったために、
成り行きで侵略者5人組と知人関係になってしまったのだった。
…だが、それと今の状況とは全く話が別だ。
いくら宇宙人と知り合いという人間でも、朝起きたとき隣にケロン人がいりゃあ驚くに決まっている。
問題は何故ココでクルルが寝ていたのか、ということだ。

「だって玄関も窓も鍵閉めたはずなのに、どうやって入って来てんのよっ!!泥棒かアンタはッ!?」
「失礼だな…玄関の鍵はかかってないぜェ?ま、俺が開けたんだけどな…くーッくッくッく」
「やってることは泥棒と同じじゃねーか!!大体なんであたしの部屋に来て寝てるわけ!!?」
「…悪いかよ?」
「悪いに決まって―― ――ッ!?」

ここまで来て初めて、自分の体に起こっている異変に気がついた。
今、自分はベッドの上に立っているのだ。
なのにも関わらず、クルルと目線の高さが同じなのである。
しかし手の長さも足の長さも等身も変わっていない。
…純粋な、小人化。
これはつまり、

「どうだい…?俺の作った新薬の効果は?くーッくッくッく」

こういうことなわけで。

「…ッざけんなぁぁーーー!!」
「アンタの望みを叶えてやったんだゼ?」
「はァ!?」
「こないだ言ってたじゃねェか。
 『ケロン人から見た世界ってどんななんだろう』…ってな」
「ん、な、ぁ…っ」

一気に力が抜けて、あたしはへたり込んでしまった。
飄々と隣に腰を下ろすクルルに愕然とする。
確かに言った。
ふと思ったことを口にしてしまった。
あまつさえこの腐れマッドサイエンティストの前で。
…そのときの私はついうっかり忘れていたのだ。
『クルルに冗談は通用しない』ということを――!

「…どぉすんのよ〜…学校、行けないじゃないっ」
「一日ぐらいいいだろ?」
「こんな大きさじゃ何も出来ないし…どれくらいで元に戻るの?」
「計算上は約24時間ってトコだな」
「…クスリ飲ませたの、いつ」
「AM0時ジャスト」
「……マジかよ」

そんな時間から人の部屋に侵入してやがったのかコイツ…。
…ん?
時計を見る。現在時刻・AM7:13。
ってコトは何?
7時間以上もクルルと一緒に寝てたってこと――!!?
一気に顔に熱が集中するのが分かる。
慌てて膝を抱えて顔を隠した。
やばいって自分今茹でダコ状態だよ耳まで赤いよ絶対ー!!

「…どうした?」
「、なんっ、でも、ないぃっ!」
「おいおい、熱でもあるんじゃねェか?ギロロ先輩並の赤さだゼ?」
「だ…ッ!」

誰のせいだ誰のッ!!
そう叫びたいのは山々だったが、ここは耐える。
あーもう何であたしはこんなヤツのことが…っ!










―――いつだっただろう。
クルルが好きだ、と気付いてしまったのは。
…何で、好きになっちゃったんだろう。
だって、あたしは地球人で、クルルはケロン人で。
決して幸せにはなれないのに。
分かってたはずなのに。
ギロロが夏美夏美っていってるのだって、馬鹿じゃんって、思ってた。
馬鹿みたいだと、思っていた。
この感情に、気付くまでは。
気付いたときにはもう後戻りできなくなってた。
どうしようもないくらい、好き、になってた。
理不尽。非常識。分かってるのに好きになるなんて。
あたしは地球人で、クルルはケロン人。
絶対に、幸せになんか、なれはしないのに。
あぁ、本当、馬鹿みたいだ。










「『だ…』、何だよ?」
「……ばかクルル」
「何?」
「ばかばかばかばか馬鹿クルルっ!!ばかばかばかばか馬鹿っ!!」
「お、おい、どうし…」
「もーやだぁッ!何であたしこんな大馬鹿なんだよー!!」

あたしは、クルルにとって観察対象とか実験動物でしかなくて。
それを分かっててそれでも好きだっていうんだから救えない。
神様、何でコイツなんか好きにさせたんですか。
こんなのって、ないですよ。

「…?」
「うるさい軽々しく名前を呼ぶなマッドサイエンティスト」
「おい」

うわぁどうしよう名前呼ばれちゃったよこんなの初めてかも。
ダメだダメだ落ち着けあたし。
この腐れマッドサイエンティストの前で隙を見せるわけには…ッ。
……え?マッドサイエンティスト?
そうだ、コイツは超天才科学者なんだ!しかも冗談が通じないッ!!
それなら――!

「あのさ、クルル」
「あん?」
「…『好きな人を嫌いになるクスリ』とか…作れる?」
「俺様のライブラリに失敗や不可能なんてダセェ言葉はねェが…何でだ?」
「ちょっと、ね」
「ははーん…恋敵に使おうってハラかい?お前も性格悪いなァ…くーッくッくッく」

誰がそんなことするか!
…という叫びは胸の奥にしまいこんでおく。

「…アンタほどじゃないよ」
「くッくッく…もっともだな」
「アンタより性格悪いヤツなんて、宇宙にあと何人いることやら」
「ま、俺より悪いヤツなら幾らでもいるんだろうがな」
「あんたら何だかんだで結構いい奴らだもんね」

あの隊長に感化されたからなのか、地球人に影響されてのものなのかは分からないけど。
本気で地球侵略しようと思ったらあんな隊長のいうこと聞く必要ないってのにさ。
侵略なんかされないにこしたことはないけどね。

「しかし、お前にも好きな相手がいたんだなァ…」
「…悪い?」
「いや、意外だと思ってな。で、誰なんだい?」

あたしのすぐ隣にいるあんただよ――。
なんて、絶対言わない。
あたしはコイツの作るクスリで、こんな感情キレイさっぱり忘れるんだから。
こいつのコトなんか、嫌いになるんだから。

「言えるわけないだろ、馬鹿」
「冷たいねェ…言わなきゃ、クスリ作ってやんないゼ?」
「なッ!?」
「くーッくッくッく…冗談さ、作ってやるよ」

そう言って、あたしの頭をがしがしと撫でる。
…なんか、いつもよりなめられてる気がする。
ってかこれは子ども扱いに近い。
いくら小人化してるからって子ども扱いかよ!?

「で、これからどうするんだい、おちびちゃん?」
「おちびちゃん言うな!!あんたのせいだろうがっ!!」
「カリカリすんなよ…それよりどうするんだって」
「うぅ…だって、どうしようも、何しようもないじゃない…」
「クク…そうだろうなァ。じゃぁ、今日1日俺に付き合えよ」





……

………!?



「はィィ!!?」
「いいじゃねェか。どうせ暇だろ?」
「いやそりゃ何もすることないっつか出来ないから暇っちゃ暇だけど」
「俺も今日は隊長達がいないんで暇なんだよ。話し相手になれ」
「いつも通りになんか怪しげな発明でもなんでもしてればいいじゃない!」
「うるせェな…この俺の話し相手になれるんだゼ?喜べよ」

更にわしわしと私の頭を撫でながら言う。
こんなのってないよ。
せっかく人が諦めようとしてるのにさぁ。

「…そういや、何でクスリ飲ませたあともここにいたわけ?」
「実験動物に投与したクスリの効果を確認するのは研究者の務めだろ?」
「はぁ。なるほど」
「…実験動物(オマエ)研究者(オレ)所有物(モノ)なんだからな。くーッくッくッく」
「〜〜〜〜〜!!!」

…ダメだ、この台詞は反則だ。
こいつ本当は自覚あるんじゃないだろうかとか思う。
けどクルルに限ってそれはないという自覚もあるのでそこでやめる。
腐れナルシスマッドサイエンティスト。それがクルル曹長だからだ。

好きな相手は異星人。
絶対叶わない恋。
よりによって相手はクルル。
理不尽。非常識。こんなのってない。





――あぁ本当、何で好きになってしまったんだろう。




















fin




atogaki
 クルル曹長夢でした。
 クルルは主人公のこと本当になんとも思ってなかとです。
 強いて言えば所有物・実験動物。主人公報われずじまい。
 片想いが書きたかったとです。