今だけは。
「OKOK、時に落ち着こうじゃないか自分」
「落ち着くまでもねぇだろうが」
「とてもとても落ち着く必要があるイベントだぜワトソン君」
どうしてこんなことになってしまったのかを順番に思い出す。
始まりは数十分前。
自分ことは、いつものように日向家地下・ケロロ小隊秘密基地に遊びに訪れた。
…のだが。
いつもなら緑とか黒とか赤とかの一匹や二匹いるはずの広間にはありんこ一匹おらず、
不思議に思いながらも、まぁそんな日もあるかと踵を返して基地を出ようとして――。
――陰湿陰気陰性陰鬱で電波な作戦通信参謀クルル曹長に、出会ってしまったのだ。
…ついでに、地球人姿ヴァージョンの。
これといって話すこともないので横をスルーしようとしたら、『ちょっと話があるからラボに来い』と来たもんだ。
ぶっちゃけ逃げ出したくて仕方なかったが、断っても後が怖いのでしぶしぶながらついていくことにした。
んで、連れ込まれた先で、押し倒されて、強引に――キス、をされて――。
挙句に『俺の女になれ』とかほざかれて。
…そして、今に至る。
「…落ち着いたかよ?」
「いや落ち着きましたけども、その命令を受ける気には到底なりようもないわけで」
『俺の女になれ』って言われてそう簡単に従うヤツはいないと思うが。
そんなことを考えるものの、意味を成さない言葉だと承知しているので言わないことにする。
おそらく地球のものではないであろう金属で出来た床に当たる背中が冷たい。
「クックック…そんなにオレが嫌いか」
「んー…や、嫌いっつーわけじゃないんですけども」
「なら別にいいじゃねぇか。嫌いじゃねェんだろ?」
「いや、その…だから…」
私は彼のこういうところが全くもって苦手なのだ。
何を言っても馬の耳に念仏、暖簾に腕押し・糠に釘。
拒否権の『拒』の字さえ与えてはくれない我侭さ。
…まぁ、それが彼の長所でもあり――私が彼を好きな所以でもある。
「そりゃあ――うん、嫌いじゃないよ?むしろ…まぁ…なんつーか、好き、だよ」
「じゃあ何で嫌がるんだよ」
「だって、さ」
ここで想いが通じ合ったからといって、何になる?
私はこの惑星の原住民で、彼はこの惑星を侵略するために来た存在で。
侵略行動が成功するにしろ、失敗するにしろ…近い将来、彼はこの星から去っていく。
それが分かっていたからこそ、私は今までこの感情を押し殺してきた。
刹那に煌めく流れ星に恋が出来るほど、愚かじゃない。
「私はね」
いつか必ず訪れる別れを知らん振りできるほど馬鹿じゃない。
「私は」
でも、全て分かっていて、…それでも好きで仕方ない、馬鹿で。
「わたし、は」
その想いを捨てたり、貫いたり出来るほど、強くも、なくて。
「さよならするの、いやなんだもの」
唇が塞がれる。
いつの間にか零れていた涙が、頬を伝って金属質の床へと落ちていく。
ぼやけた視界に、金色の髪と真紅の瞳。
「明日のコトなんか、考えるな」
いつか必ず別れは訪れる。決して変えられない運命。
「今はただ――俺だけを見てろ」
目の前が紅で覆われる。
明日、彼がここにいるかは分からない。
明日、彼のことを覚えているかは分からない。
明日、彼のことを想っているかはわからない。
だから、今日だけは。
今だけは。
fin
atogaki
えー…クルル(擬人化)夢でございます。
最初はフリー夢『玉響の煌めき』のつもりで書いていたのですが、
ちっとも全くさっぱり甘くない、風海節炸裂の作品になってしまい
あまりにもアレなので別モノにしました。ダメな子です。すんまそん。