「なんかさぁ、変わったよねー」
「そぉ?」
「うん。オカルトっ気が抜けたって言うか、電波が消えたというか」
「…あー…。…うん。そうだね、うん…」















宇宙電波 vs 地球電波















「電波が消えた、ねぇ…」


そもそも電波というのは波の一種であるが故に、
同程度の強さの逆位相の波とぶつかり合うことで相殺し、
また、より強い波と接触すれば飲み込まれてしまうものなのである。

自他共に認める吉祥学園の電波雑学王(ただし成績は並)――といえど、
いかんせん左様な物理法則には逆らえないものなのだ。


「ただいまーぁ」


地球上にアレでナニな電波を受信しているヤツなんざ幾らでもいて、
まぁ電波通り越して壊れてる連中は置いておくとしても、
それでも自分はこの街ではそこそこ良質な電波を受信していると思っていた。
のだが。


「よう、お帰」
「パーンチ、ドランカ〜刹那主義ィ〜〜〜とくらァッ!!」
「ぅゴフッ!?」


知識などというものは非常識を通り抜けた世界においてはほぼ無意味なものなのだ。
Amazonを逆にしてKoを足したらこのザマだトカ。どうでもいいか。
いかに私がオカルトを含めた各種雑学大好きとはいえ、
自分自身がオカルトに関わるのはもちろんノーサンキューに決まっている。
私はあくまで机上の空論が好きなのであって、リアルは好きじゃないのだ。
現実逃避でも何とでも言うがいい。

それなのに数週間前に緑色の明らかに地球生物ではないものを見かけた日から、
黒・赤・青の各色の似たような生命体(らしきもの)が見えるようになってしまい、
そしてあまつさえ、1週間前にこの黄色い物体に話しかけられてしまったのである。

もちろん見えぬ聞こえぬ知らぬ存ぜぬで全力全開絶好調に無視をしてダッシュで逃げたのだが、
いつの間にやらって言うかどうやって知ったのか私の家の私の部屋に居くさりやがったのだ。

当然私はその黄色い物体に昇龍拳を食らわせゴミ袋に詰め込んで窓から放り投げた。
…にも関わらず、コヤツは次の日の帰宅時にもちゃっかり私の部屋に居座っていたのである。
私は再び殴り飛ばしたが、ゴミ袋に入れて捨てることはしなかった。
代わりに脱出不可能な縛り方でぐるぐる巻きにして天井からぶら下げてやったのだ。

そこで聞き出したのが、私が見た無駄にカラフルな2頭身生命体はケロン人といい、
この星を侵略しようとたくらむ宇宙人なのだという。
んでこの愚かな黄色はクルルとかいい、作戦通信参謀なんだとか。

そこまで事情聴取した後、ぐるぐる巻きのまま窓から捨てた。
私はあくまで机上の空論が好きなんだっつの。

それなのに。それなのに、だ。
こんのクルルとか言うアホンダラは毎日毎日こりもせず私の部屋にやってくるのである。


「クッ…相変わらず切れ味鋭い拳だぜ…」
「あいにくだが私は心優しき地球科学の子ッ! 地球外生命体に容赦するのは無理だッ!!」


学校での電波が消えたというのはこの阿呆相手に電波を使っているからだ。
この変な生命体をまともに相手するなんて狂気の沙汰でしかないではないか。

まったく、何故私がこんな目に遭っているのかさっぱり分からない。
もしやアレか?呪われているのか?


「酷いじゃねェかよ。同じ電波同士仲良くしようぜ?」
「だが断るッ!! 何が同じ電波だッ!! サイコクラッシャー希望か!?」
「穏やかじゃないねェ…そんなに俺が嫌いかよ」
「穏便は優しさの次に私の得意ジャンルだと覚えておくがいい。
 それすなわちッ!私の平穏を乱す奴には容赦しないということだッ!」
「優しさはどこ行った、優しさは」


地球外生命体に優しさなんぞ不必要である。
それ以前に地球外生命体に与える優しさは持ち合わせていない。

正直疲れてしまった。鞄を放り投げ、ベッドに座り込む。
出来ることなら時空航行装置(因果律変更可)で初めてケロン人を見た日に戻りたい。
そしてあの日の自分に決して緑色の生命体を見つけるなと忠告したい。
そうすればこんなことにはならなかったはずなんだッ…!!


「もう勘弁してくれッ…オウムと九官鳥以外の人語喋る人外には興味ないんだ!!」
「あん? 地球人型ならいいのかよ?」
「よくはない。が、まぁ、気分的に…」
「じゃあなってやろうか、地球人型に」
「あっそー…   …って何ィィィ!!?」


ぽむ。

そんな間抜けな音がしたと思った次の瞬間、
目の前の黄色い生命体は長い金髪と紅い瞳を持つ地球人の青年になっていて。

…これにはさすがに固まってしまった。


「………んな、アホなッ…」
「コレくらいどうってことないぜ? 何せ俺は天才だからな…ククッ」
「いや…幾らなんでもコレは…」


唖然。呆然。放心。
だってありえないじゃないか、こんなこと。
あんな黄色い2頭身が、こうなるなんて。

…格好よすぎるだろ。普通に。
っていうか超好みなんですけど。
ヤバイ。クルルヤバイ。惚れるかも。
なんだろうこの気持ち。恋?
いやちょっと違う気がする。あ!コレが萌えと言うやつかッ!?(←?


「とりあえず正直な意見として、その姿は直球ド真ん中で好みだと言っておく」
「コレで話聞く気になったか?」
「…うーむ…最低3度は頭を下げてもらいたいところだが、
 義に生きるカッコイイ私のこと。今だけは戯言を聞いてやらぁ」
「そうか。じゃあ、とりあえずオレと付き合え」
「ぁどっこいしょ―――――!!!!!」
「ゴハァッ!!?」


渾身のライダーキック。
グロンギだって一撃だぜ。


「〜ッな、何でだよ!? 話聞くって言ったじゃねェか!」
「言った! 言ったが宇宙的ジョークを聞いてやるつもりはないッ!!」
「何がジョークだっつーんだ!?」
「胸に手ェ当てて考えてみやがれ非常識の塊めが!!」
「…なんだよ、付き合えって言ったの、ジョークだと思ってんのかよ」
「宇宙人に付き合えって言われて信じろってのかッ!!?」


公序良俗にはチトうるさい自称良識人に対して何を言うんだこの蛙モドキは。
だいたい私は異性に好かれたことがない。自信を持って言える。
この持ち前の電波っぷりが受け容れられないらしい。
まぁ、そんな奴ぁこっちから願い下げだが。


「…そうかよ」
「おう。そういうことだからとっとと帰」
「じゃあ」


何、と、その言葉が音になる前に、…私は押し倒されていた。
次の瞬間、唇に何かが触れて。
その触れたものがクルルの唇だったのだと気付いたのは、
眼鏡越しの紅い瞳とばっちり眼が合ってしまった時だった。


「…な、な、なっ…!!」
「これで信じる気になったかよ? オレはお前が好きなんだ」
「すすすすす好ッ、好き…!!?」
「ああ。大好きだぜ、


眩暈がする。
常識外。常識外。非常識極まりない。
ありえない。ありえてたまるか、こんなこと。


「ふざけんな、この宇宙毒電波…ッ!」
「ああ。だから俺に呑まれちまえよ――電波少女?」
「…一緒にすんな、っての…!」
「ツレないこというなよな、仲良くしようぜ」
「ばッ、っ、ふ…!」


抗議の声は、塞がれた口の端で零れて消えた。










――そもそも電波というのは波の一種であるが故に、
同程度の強さの逆位相の波とぶつかり合うことで相殺し、
また、より強い波と接触すれば飲み込まれてしまうものなのである。

腹立たしいことにどうにもこの宇宙人は私より強い電波を持っているようだ。
しかも性格の悪さと強引さもその身にご共存しているらしい。





…簡単に呑まれてやる気はないが、呑まれない自信も、そんなになかったりする。




















fin




atogaki
 劣勢ペンギン様からのリクエスト品なクルル夢。
 『付き合う前の話、主人公は雑学豊富な成績容姿共に普通の子』…ということだったんですが…。
 …これ、付き合う前の話って言っていいのかぁ?電波は俺だっての( つ∀`)アチャー
 甘くもないし風海お得意のシリアスでもないですが、こんなんでよければ…。
 リクしてくださってありがとうございましたぁッ!!