愛しています、いつまでも。

優しいあなたが、大好きです。










揺らめく紅、君への想い










「あーあ、綺麗な顔しちゃって」

独り言。
目の前のそれには、聞こえない。
もう、二度と。

「どこの野球漫画の主人公の双子の弟ですか、と」

答えない。
怒らない。
笑わない。
冷たく、固まっていくだけのそれ。

「私を置いていく気ですか、と」

私は何故生きているのだろう。
彼は死んだのに。
黒い光の、悪戯なのか。

「…返事してくださいよ、と」

我侭を言ってみる。
昨日までの君なら、我侭を言うなと言ってくれた。
頭をくしゃくしゃと撫でて、子ども扱いをして。
その優しい手はもう、動かない。

「大好きだって、言ってくれたじゃないですか、と」

ぽろぽろと涙がこぼれる。
能力者になって、初めて人を殺した日以来だ。

「ねぇ、泣いてるんですよ?」

辛いときはいつだって傍にいるって、言ったのに。
哀しいときはいつだって慰めてやるって、言ったのに。

「…だから、」

始めて人を殺して、怖くて怖くて仕方なくて。
泣き喚く私を、優しく抱き締めて、頭を撫でて。
俺はが大好きだよと、言って。
弱音を吐き出した場所に、口付けてくれた。
温もりと優しさで、包んでくれた。

「あの時と同じように、キスしてもいいですよね、と」

触れた唇は、冷たかった。










「タイスケとヒロセ、どうなるんでしょうかね、と」

天を突くような業火の柱を見上げる。
アレはきっと、タイスケがやったのだろう。
あの中心に、タイスケとヒロセがいる。
能力者の勘か、なんとなくそう思った。

「私は…どうしようかなぁ」

生きていくとするならば、君がいない世界。
けれど死んだとして、君に逢える保障はない。

「確信のないことするの、苦手なんですよ」

答えなど、問うたその時には既に出ていた。
右隣に横たわる愛しい人の亡骸に、そっと触れる。

「…さよならなんか、言いませんからね、と」

意識を集中させる。
気を体内で練り、それを右掌へ――。
本来発生するはずのないモノを、作り出すエネルギーとして。

「――練火」

右手から、炎が噴き出す。
君の身体を紅が包み、熱と共に崩れ落ちていく。
体内エネルギーを、炎として体外に放出する。
これが私の能力だ。
君の顔を焼いたタイスケの力と同系の、炎熱の能力。
それでも君は、私を好きだといってくれた。
大嫌いな能力を持った私を、能力抜きで好きだって言ってくれた。
この能力に『練火』と名前をつけてくれた。
そんな君が、誰よりも大好きです。

「絶対に忘れないですからね、と」

もう原型を留めてはいない、君の身体。
慕うひとの遺骸を焼き尽くし灰にしたその手で、自分の顔の左側に触れる。
君がタイスケに焼かれた場所。
そこに、能力を発動させる。

「…こうすれば…忘れないでしょう?」

君と同じ場所に、火傷を。
私の能力では、タイスケのように細胞を死滅させることは出来ない。
私も能力者である以上、自然治癒力は人並み外れている。
どんなに深く火傷を負っても、いつか消えてしまうだろう。
それでも。

「君以外を想う気なんて、さらさらないんですからね、と」

焼け跡が消える度、何度でもこの場所を焼こう。
自分との契り。君への誓い。
私が生涯愛するのは、森尾健一郎ただ一人。

「…大好きです、森尾」

遺灰に背を向けて、湖を離れる。
過去形にならない想いを胸に。
だから最後は、別れの言葉ではなく、愛の言葉を。










愛してるよ。















fin




atogaki
 久々にお題以外の小説。アライブ森尾夢。
 最後のほうまで名前出さないようにしてたけどバレバレかな?
 森尾夢で主人公の能力=炎って設定が結構好きなんで、今後も使うかもです。
 …その前に連載とかリク夢書こうぜ自分orz